東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)178号 判決 1973年6月14日
原告 坪山英夫 外一〇名
被告 国
訴訟代理人 中村勲 外七名
主文
原告らの請求はいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者双方の求める裁判
一 原告ら
「原告らが一般職に属する国家公務員である地位を有することを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」
との判決
二 被告
主文同旨の判決
第二請求の原因
一 被告の機関である建設省関東建設局宇都宮国道工事事務所長は、原告らを、もつとも早いもので昭和三四年四月、もつとも遅いもので昭和三七年六月に、それぞれ同国道工事事務所の工事人夫に採用したが、右採用は任命権者である同国道工事事務所長がその権限にもとづいて国家公務員法上の一般職に属する職員に任用したものである。
二 ところが、被告は、原告らが同法上の一般職の職員であることを認めないで原告らと争つている。
第三請求の原因に対する答弁ならびに抗弁
一 請求原因事実は認める。
二 原告らは、その任期を一日と定められ、日日雇い入れられる非常勤職員として任用されたものであるが、その任命権者である宇都宮国道工事事務所長において原告らが引き続き勤務していることを知りながら別段の措置をしなかつたことにより、従前の任用が同一の条件をもつて更新されたものとして取り扱われてきた。
三 宇都宮国道工事事務所長は原告らに対し、昭和四四年二月二四日に文書をもつて同年三月二九日限り任用の更新を拒絶する旨の通知をした。そこで、原告らは昭和四四年三月二九日に同日の任期が満了したので当然退職するにいたつた。
第四抗弁に対する答弁
一 被告の抗弁事実中宇都宮国道工事事務所長が原告らの任用につきその任命権者であること、同所長が昭和四四年二月二四日に原告らに対し文書をもつて同年三月二九日限り任用の更新を拒絶する旨を通知したことはいずれも認めるが、その余の事実は争う。
二 仮に、原告らの任用が被告主張のとおりであるとしても、その主張のような任期の定めは国家公務員法上許されないものであるから無効である。
1 国家公務員法は、憲法二五条、二七条および二八条による生存権、勤労権および労働基本権の保障の趣旨を受け、国家公務員法の定めを根本基準の一つとして国家公務員の身分保障を掲げ(一条一項)、分限事由を厳格に限定して規定し(七五条一項、七八条、七九条等)、もつて国家公務員の身分保障をはかつている。そして、この身分保障の趣旨から、職員の任用については定めのない任用を任用を原則として定めている。国家公務員法付則一三条は、法律または人事院規則によつて職務と責任の特殊性にもとづいて同法の特例を設けることができる旨規定しているが、同時にその場合においても、その特例は、この法律一条の精神に反するものであつてはならない、としている。したがつて、同法付則一三条を根拠として同法上の身分保障の原則に反するような特例を設けることはできない。ところが、日日雇用の形態による職員の任用が許されるとすれば、任期の更新を拒絶することによつて、自由にその地位を失わせることができることを肯定することになり、同法の定める身分保障の趣旨を没却することになる。したがつて、同法付則一三条を根拠に任期を一日とする任用を許す特例を定めることはできない。すなわち、任期を一日と限つて任用することを許している人事院規則八-一二第七四条一項三号、二項は同法付則一三条、同法一条一項に違反し無効である。
また、職員の従事する業務が臨時的かつ肉体的単純労務であるということは、右のような日日雇用の形態による任用を認める特則を同法付則一三条を根拠として規定できるとする合理的理由とはならない。このことは、機械的労務に従事する現業の国家公務員にも身分保障に関する前記各条が適用され(公共企業体等労働関係法四〇条一項)、単純な労務に雇用される一般職に属する地方公務員の場合にも、他の一般職の職員と同様に、分限事由を定めた地方公務員法二八条が適用され、身分保障に関しては、何ら異なつた取扱いはなされていないこと(地方公務員法五七条、地方公営企業労働関係法付則四項、地方公営企業法三九条一項)、また臨時的業務に従事する職員の任用については国家公務員法上これを特に限定する規定が設けられており(六〇条)、しかも同規定にもとづいて任用された職員にもそれ相応の身分保障が与えられていること(人事院規則一一-四第八条、同法七八条)からして明らかである。
2 原告らが従事していた作業のうちには、ガード・レール、街燈、道賂標識等保安設備の設置、維持、補修などもあつたが、これらは必ずしも単純な肉体的作業ばかりではないし、また道路の維持、補修等の業務は、「一般国道四号及び五十号の改築及び修繕工事、維持その他の管理」を所管する宇都宮国道工事事務所の基幹的業務であり、道路の存在する限り必らず行なわれなければならない継続的恒常的業務である。宇都宮国道工事事務所においては道路の維持、補修等の工事をもつぱら直営方式により、年間を通じてほぼ同じ規模で、しかも継続的に施工してきたこと、この直営工事には原告らを含むほぼ特定した一定数の工事人夫が行政職俸給表(二)の適用を受ける常勤の一般職職員(以下「行(二)職員」というと。)ともに継続して従事してきたこと、またその作業内容は、工事人夫も右行(二)の常勤職員もほぼ同じであつたこと等の事実はこれを示すものである。
原告らは、採用されるにあたり、国家公務員法にいう競争試験こそ受けていないが、事前に面接を受け、履歴書を提出したり簡単な身元調査を受けるなどの選考を経ている。そして原告らは単に建設省職員として雇用する旨の説明を受けただけである。また原告らが作業日に休むときはその旨を口頭で屈け出なければならないものとされており、現実にもそのようになされてきたのである。
3 以上のとおり、臨時的な単純労務に従事する職員であるからといつて、このような職員を人事院規則八-一二第七四条一項三号、二項を根拠に日日雇用の形態で任用することは、そもそも国家公務員法上許されないものであり、仮にこれが許されるとしても、原告らが従事していた業務は決して臨時的なものではなく、継続的、恒常的業務であつたのであるから、原告らを任期を一日と限つて任用することは同法上許されない。したがつて、仮に原告らが任期を一日として任用されたものであつたとしても、右任期の定めは無効である。
第五被告の反論
原告らの職務等の特殊性からして任期を一日とすることは有効である。
一 国家公務員法は、経常的業務に従事する常勤職員を任用する場合には、任期の定めのたい任用をもつてその建前としている。と同時に、同法付則一三条は、人夫作業のように、就労する職員の資格や能力がさして問題とならないような単純な肉体的作業で、その業務の存続が被告の政策や方針によつて左右され、その業務を必要とする事業量が事業施工方式によつて増減したり、季節や天候等によつても変動するような臨時的業務に従事する非常勤職員の任用等について、法律または人事院規則をもつて同法の特例を規定することを許容している。そして、同条を受けて、人事院規則には非常勤職員を任期を一日と限つて任用することができることを前提としたものと解される特例規定が設けられている(人事院規則八-一二第七四条一項三号、二項等)。したがつて、臨時的かつ肉体的単純労務に従事する非常勤職員を任期を一日として任用することは同法上当然に許されるものである。
二 非常勤職員の任用に任期を定めることは同法の定める身分保障を奪うものではない。日日雇用の非常勤職員は、同法七五条一項、七八条等の適用があるが、ただ任期が一日とされている関係上任期である一日の範囲内に限つて身分保障に関する右各規定の適用を受けるにとどまる。また、同法六〇条の規定は常勤官職に欠員が生じた場合にその欠員を臨時的に補充するための任用方法を定めたものであるから、非常勤職員を任期を一日と限つて任用することは、右規定の臨時的任用とは異なり、もとより可能である。
三 原告らは、宇都宮国道工事事務所が直営方式で施工する国道の路面、側溝の補修、清掃等国道維持補修のための工事人夫として採用され、同工事事務所の各工事現場において土木作業、草刈り、清掃等の単純な肉体的作業に従事していた。
ところで、同工事事務所がその所管業務を遂行するために施工する直轄工事の量および規模は各年度の予算ならびにこれを基礎として立案される工事実施計画によつて決定されるがその工事の施行方式には、同工事事務所が直接に工事資材を入手し、工事人夫等の労務者を雇用(賃金は工事費の中から支払われる。)して行なう直営施工方式だけではなく、民間の土木業者に請け負わせてする請負施工方式があり、右の方式のいずれによるかは建設行政上の裁量の問題であつて、同工事事務所長が諸般の事情を総合判断して決定する。したがつて、直営工事のために採用された原告ら工事人夫の従事する業務は、そのときの予算ならびに工事実施計画によつて決定される工事量、工事規模、工事施工方式さらには工事の進捗状況、天候等によつて時時増減変動し、必要とされる人夫の数も一定しないような極めて臨時的な肉体的単純労務であるということができる。
また、原告らは、その採用にあたつては、任期の定めのない常勤職員が採用される場合の国家公務員法による競争試験や選考を受けることなく、同工事事務所の係官から身体の確認を受ける程度で採用されたものであり、採用されても一般の常勤職員とは異
なり、人事異動通知書は交付されず、直営工事の日日雇用の人夫として採用されたものであること、賃金が日給であること、賃金の支払いが月二回(非常時払いを除く。)であることならびに就労点検票の交付があること等について係官から説明されるにとどまり、就労にあたつては、各工事現場において単純な肉体的作業に従事し、終業後は事務所側で作成した就労点検票の交付を受けて帰宅するが、翌日就労する場合にはこれを各工事現場の係官に提出して就労の申込みをし、係官の承認を得て就労し、就労点検票には毎終業後その都度係官から就労の事実を証する検印を押捺してもらつたうえその返還を受けるが、この就労点検票は原告らの就労確認票となるとともに賃金計算の根拠とされ、一般の常勤職員の出勤確認が出勤簿に自ら押印することによつてなされるのと異なる。賃金は、就労点検票の領収欄に自己の受領印を押捺のうえ係官に提出して支払いを受ける。また、原告らが同工事事務所の作業日に就労するか否かは本人の任意な意思にまかされているから、各月の就労日数は各人によつてまちまちであり、就労予定日に無断で就労しなかつたとしても何ら懲戒処分の対象とされないのである。この点でも一般の任用期限の定めのない常勤職員とは根本的に異なつている。
このように原告らの就労の実態は、任期の定めのない常勤職員のそれとは著しく異なり、さらに賃金、勤労時間、休暇等その他の勤労条件についても常勤職員とは異なつた取扱いがなされていた。
四 以上のとおり、原告らが従事していた業務は、臨時的かつ肉体的単純労務であり、その就労の実態も任期の定めのない常勤職員のそれとは著しく異つていたのであるから、このような原告らの職務等の特殊性からしてその任期を一日とすることは国家公務員法に違反するものではなく有効である。
第六原告の再抗弁
仮に、原告らが被告主張のとおり日日雇用の工事人夫として用されたものであるとしても、原告らに対する本件任用更新拒絶は次の理由により無効である。
一 原告らはいずれも日日雇用の工事人夫として採用されて以来、長きは一〇年近くにもわたつて継続的に勤務してきた。その従事してきた業務も本来任期の定めのない常勤職員が担当すべき恒常的業務であり、就労の実態も行(二)職員のそれと何ら異なるところはなかつた。したがつて、原告らの任用は、遅くとも昭和四四年三月二九日当時には、期限の定めのないものに転化していたのであるから、日日雇用を前提とする本件任用更新拒絶は無効である。
二 本件任用更新拒絶は、国家公務員法八九条一項、人事院規則八-一二第七一条六号にいわゆる免職ないしは著しく不利益な処分と解されるから、これをなす際には処分事由を記載した説明書の交付を要するところ、原告らにはその交付がなかつた。この手続的瑕疵は明白かつ重大なものであるから本件任用更新拒絶は無効である。
三 本件在用更新拒絶は原告らと被告との間の雇用関係を失わせる点において解雇(ないしは解雇予告)にほかならないところ、被告の定めた就業規則によれば、宇都宮国道工事事務所では、解雇事由について「工事、予算等の都合により事業を廃止又は縮少しようとするとき」に限定している。しかるに、原告らにつき右の事由は存しない。また本件任用更新拒絶は、同法七八条にいう免職と解されるから、これをなすには同条所定の事由がなければならず、日日雇用の非常勤職員の職務と責任の特殊性を考慮しても、少なくとも同条所定の事由に準ずる事由がなければならない。しかるに、原告らについては右のような事由が存しない。したがつて、本件任用更新拒絶はその理由を欠き無効である。
四 原告坪山、小滝、川畑、田崎、柿沼および簗瀬は、昭和三八年ごろ矢板建設省労務者組合を結成し、労働条件向上のため着実な活動を行ない、昭和四四年二月二五日付で同法に基づく職員団体として登録された。宇都宮国道工事事務所長は右のように活発な活動を続けてきた組合ないしは組合員である同原告ら六名を敵視してその任用更新を指絶したものである。したがつて、本件任用更新拒絶は同原告ら六名に対してその効力のないものである。
五 本件任用更新拒絶は、解雇(もしくは解雇予告)にほかならないが、次のような事情を考慮するときは、その合理性を欠くものであつて、解雇権の濫用にあたるとともに同法七四条一項にも違反し無効である。
1 原告らが従事していた道路の維持、補修等の業務は、前記のとおり継続的恒常的業務であり、これを停止することができない性質のものである。この意味において、これは直営方式で行なわなければならない業務である。また業務の能率的遂行という面からみても、作業に習熟した原告らを継続雇用する方がよいことは明らかである。そうすると、右のような業務を請負方式により施工することとしてまで原告らの任用更新を拒絶しなければならない合理的理由はないといわざるを得ない。
2 原告らは、従来農業や臨時工等不安定な職業に従事していたところ、「建設省では国道の維持補修を行なうが、その仕事は継続的に存在する。」といわれ、また「数年つとめれば建設省の職員になれる。」などと勧められて、安定した継続的職場として、かつ、正式の職員に定員化されることを期待して宇都宮国道工事事務所の工事人夫に採用されたのであるが、その後昭和三六年二月二八日の「定員外職員の常勤化防止について」の閣議決定ならびに昭和三七年一月一九日の「昭和三七年度の定員外職員の定員繰入れに伴う措置について」の閣議決定により常勤化防止の措置がとられて定員外職員の定員繰入れの措置も終了したとされながら、これらのことを知らされず、また右の閣議決定にもとづく使用予定期間も示されず、以後も経続的に雇用されてきたのであつた。それなのに、宇都宮国道工事事務所長は原告らの任用更新を拒絶した。
第七再抗弁に対する答弁
一 一般職の国家公務員の官職、任用資格、任用手続、勤務条件、身分保障等は国家公務員法、人事院規則等で法定されていて任命権者が公務員となるべき者との合意によつてこれらを自由に決定する余地はない。また公務員の場合は権限ある任命権者の適法な任命行為なくして当該公務員の官職ないし法的地位が転化することもありえない。原告らは、任用期限の定めのない常勤官職を任命する権限のない宇都宮国道工事事務所長により、国家公務員法による競争試験もしくは選考を受けることなく日日雇用の非常勤職員として採用されたものである。
すなわち原告らについては、任用期限の定めのない一般職の国家公務員の地位を取得するための権限ある任命権者による任命行為は存在せず、しかも法定の任用資格要件がないのであるから、原告らが日日雇用の更新の扱いを受けていくら長期間雇用されたとしても、その法的地位に変動が生ずることはないのである。
二 本件任用更新拒絶に際してその事由を記載した説明書が原告らに交付されなかつたことは、原告らの主張するとおりであるが、これをもつて手続上の瑕疵であるというのは当らない。
三 原告らは任期満了により当然退職したのであつて解雇されたわけではない。また、原告ら主張のような就業規則が定められたことはない。原告らが就業規則と主張しているものは、かつて被告において定めることを検討した際に用意した案文にすぎないものである。
四 原告坪山、小滝、川畑、田村、柿沼および簗瀬が昭和三八年頃矢板建設省労務者組合を結成し、右組合が国家公務員法上の職員団体として昭和四四年二月二五日付で登録がなされたことは認めるが、宇都宮国道工事事務所長が同原告ら六名に対して同法一〇八条の七にいう不利益取扱として本件任用更新拒絶をしたことは否認する。
五 およそ行政運営にあたつては、その合理的、能率的執行につとめなければならないが、宇都宮国道工事事務所においては、その所管する国道の改築、改良、維持および補修等の業務が年々増加の一途をたどり、これを合理的、能率的に遂行するためには、直営方式から請負方式に工事施工方法を転換せざるをえなかつた。すなわち、近年の交通量の激増に対応するために、道路の事業量が著しく増加したのみたらず、交通事故の激増にともない、道路の交通安全確保のための道路の維持管理業務を強化せざるをえなくなつて道路に関する行政需要が著しく増大し複雑になつたにもかかわらず、行政合理化の要請によつて定員内職員はむしろ減少傾向にあつたので、これに対応するため行政運営の合理化、定員内職員の合理的配置が必要となつた。原告らが従事していた道路の直営工事は人力施工が主であつて非能率であるばかりでなく、直営工事を施工するためには、原告ら工事人夫のほか、これの監督指導にあたる職員ならびに材料の調達やその検査、受払、就労点検票整理、賃金の支払、車輌の運転やその整備、その他工具器具類の整備等のために多くの定員内職員を必要とするので、原告らが就労していた直営工事を請負工事に切り替えて前記の定員内職員を他へ有効に再配置すべく、加えて工事人夫の交通災害多発の傾向にも対処しなければならないこととなつた。他方民間業者の請負態勢も整備されてきたので、直営施工方式から請負施工方式へ移行したのである。このように建設行政の合理化のために昭和四四年四月以降直営工事は廃止されたのであるから、直営工事のため、毎年度工事費予算の範囲内で日日雇用の工事人夫として任用されていた原告らが直営工事の廃止にともない任用を更新されたくなつたのは当然である。しかも被告は本件任用更新拒絶の措置をするに際して一か月以上前にその旨を予告したうえ、就職あつ旋等の措置を講じたのである。原告らが解雇されたものでないことは前述のとおりである。
なるほど道路の維持管理それ自体は継続的恒常的な業務であるし、また、道路の管理、維持、修繕のための調査、計画書・設計書の作成、作業計画の立案、維持・修繕工事の指導および監視等は定員内の常勤職員に担当させるにふさわしい恒常的な業務といえる。しかし道路の維持、補修の具体的な工事そのものは、必ずしも直営工事で実施する必要はなく、民間の土木業者に請負施工させることも可能であるうえ、近時の土木業者の機械化、合理化にともなう工事施行能力の向上によつて、より能率的に行なわれることが少なくない。また、道路の維持、補修を直営工事で実施する場合にも、その工事の工事人夫として雇用される原告ら現場労務者の作業は、天候、工事量、工事の進渉状況、工期等によつて時時増減変動する臨時的限時的な単純肉体労務であつて、常時一定の定員内常勧職員を確保して行なうのに適する継続的恒常的な業務とはとうていいえない。
六 昭和三六年二月八日の閣議決定「定員外職員の常勤化防止について」は定員規制の対象となる職員と同種または類似の職員が定員規制の外に発生することを防止することを目的としたものであつた。したがつて、原告らの如く単純な肉体的作業に従事する直営工事の人夫のような臨時的限時的業務に従事する職員については、定員規制の対象となる職員とは根本的相違があるため、本来その規制の対象としていないと解する余地があつたので、昭和三六年六月七日付の建設事務次官通達にもとづき就労点検票に「あなたは、日日雇用の非常勤職員です。」と明示してその法的地位を確認することとし、さらに翌昭和三七年一月一九日の閣議決定において昭和三七年度の定員化により定員繰入れの措置は終了したものとされたことから、昭和三七年三月三〇日付建設事務次官通達によりさらに徹底した定員外職員の常勤化防止措置が図られることとなつた。しかしその後次第に右通達の運用による現場労務者の常勤化防止については不徹底を生ずるところとなつたので、昭和四四年三月七日付同省人事課長通知によりあらためて現場労務者を対象にした常勤化防止措置が図られた。
建設省の直営工事は、漸減の傾向にあり、宇都宮国道工事事務所においても同様であつたが、年度末ごとに原告ら現場労務者からの翌年度直営工事に雇用されることを希望する声が例年あつたので、直営工事の全面的な請負化については慎重に検討し、原告らの処遇についても就職のあつ旋に努力する等十分配慮したうえで、昭和四三年度末をもつて直営工事を廃止し、原告らの日日雇入れの任用を更新しないこととしたもので、宇都宮国道工事事務所がその便宜によつて原告らを常勤化させ、原告らに定員化の期待を抱かせ続けた事実はない。
第八証拠関係<省略>
理由
一 被告の機関である建設省関東地方建設局宇都宮国道工事事務所長が原告らをもつとも早いもので昭和三四年四月もつとも遅いもので昭和三七年六月にそれぞれ同国道工事事務所の工事人夫に採用したこと、右採用が同国道工事事務所長の任命権者としての権限にもとづき国家公務員法上の一般職に属する職員に任用したものであることはいずれも当事者間に争いがない。
二 被告は、原告らはいずれも任期を一日と定められて日日雇い入れられる非常勤職員に任用されたものであると主張し、これに対し、原告らは、任期の定めのない常勤職員として任用されたものであるといつて争うので、まず、この点について判断するに、<証拠省略>ならびに弁論の全趣旨を総合すると、次のとおり認めることができる。
建設省が所管する道路、河川の改築、改良、維持、補修等の業務は、民間の土木業者にさせる請負施工方式と建設省がみずから工事資材を入手し、人夫等を雇用して遂行する直営施工方式とがあるが、後者の工事方式においては、その工事の規摸、施工法たらびに進捗状況および天候等により業務量が時時増減し、また工事遂行に必要とされる労務者の数も右増減に伴つて変動する臨時的業務であるから、直営工事に従事する職員で技術者、技能者、監督者および行政事務を担当する者以外の単純な筋肉労働を給付するにとどまる工事人夫は、右業務の増減変動に臨機対応させるため、定員法上の常勤職員として管理するのは相当でなく、右工事人夫の職務と責任の特殊性にもとづいて、国家公務員法付則一三条による特例として定められた非常勤職員等の任用に関する人事院規則八-一四に従い、同法の定める競争試験または選考のいずれにもよらないで、日日雇い入れられる非常勤職員として採用し、稼働させてきた。そこで、建設省関東地方建設局宇都宮国道工事事務所長は国道の路面、測溝の補修、清掃等の直営工事に原告らをその工事人夫として採用したのであるが、工事人夫の採用は、その採用に係る工事の工事設計書にもとづく工事費用の範囲内で必要に応じて任用され、かつ、日日雇用を建前とするから、原告らを工事人夫に採用するにあたつては、国家公務員法上の競争試験または選考のいずれにもよらないで、ただ単純な筋肉労働に堪えられる者であることを一瞥もつて確認する程度で採用して就労させ、その際原告らに対して、工事人夫が日日雇用の非常勤職員であること、賃金給与が日額にもとづき月二回支払われること、紙票式の就労点検票によつて勤務に服した時間等を確認することなどの勤務条件について説明し、原告らもまた当初から日雇いあるいは人夫と呼ばれていたので、呼称どおりに端的にその雇用形態を理解していたし、特に昭和三六年七月上期からは就労点検票の裏面記載事項中に「あなたは日日雇用の非常勤職員であります。」旨明記されて原告らの雇用関係を一層明確に示して取り扱われるにいたつたが、これについてあえて異を挾むような者はいなかつた。また、原告らの就労については、出動簿を備え付けることがなかつたが、その代り紙票式の就労点検票が原告ら各自に交付されてその賃金額、稼働時間などを検印等によつて明らかにし、賃金の支払いは就労点検票と引き換えに行なわれ、引き続き勤務する場合には、その勤務に際し就労点検票を係員に提出しておき、終業後就労点検票に検印等をえたうえ返付を受けていた。そして、原告らの任用の更新については、人事院規則八-一二(職員の任免)七四条二項の規定により、原告らが工事人夫として引き続き勤務することを任命権者である同国道工事事務所長が知りながら別段の措置を講じなかつたことにより従前の任用が同一の条件をもつて更新されてきたが、原告らの賃金給与がその採用に係る工事設計書にもとづく工事費予算から支出されることから、会計年度独立の原則に従い、毎年三月の会計年度末においては、原告らの従前の任用の更新をいつたん打ち切つてから新会計年度に入つてあらたな工事費予算にもとづき再び原告らを工事人夫として採用するまでに約一〇日間の中断があつたので、右中断はいちおう退職してから再び採用されるまでの期間として労使間に理解されていたし、工事現場の作業期間中においても就労するかどうかは工事人夫の自由意思に任されていたことから農繁期に農作業に従事するなどして工事人夫の就労を一時中断することがままあつて就労日数の較差が原告らにより区区にわたつていたので、原告ら各自につき採用、任用更新、退職、再採用が絶えず反覆されていたが、昭和四四年二月二四日に本件任用更新拒絶通知があるまでは、原告らはいずれも一箇月を超えて引き続き勤務していることを任命権者である宇都宮国道工事事務所長が知りながら別段の措置を講じなかつたことにより従前の任用が同一の条件をもつて更新された日日雇用の非常勤職員たる工事人夫として使用されていた。なお、給与についても非常勤職員の給与の特例に従い一般職の職員の給与に関する法律の適用が全面的に排除され、ただ常勤職員の給与との権衡を考慮しながら予算の範囲内で支給することとして(二二条二項)、その他勤務時間、休暇等に関する勤務条件とともに非常勤職員の特例を定められ(昭和二七年建設省訓令九号建設省労務者賃金規程 なお非常勤職員の勤務時間および休暇に関する人事院規則一五-四参照)、共済組合制度上も建設省所属の国家公務員でありながら常時勤務に服することを要しない国家公務員で特に定めるもの以外のものであるから同省職員の組織する国家公務員共済組合の組合員たるの資格がなく(国家公務員共済組合法二条一項一号、三七条一項)、そのために健康保険、失業保険および厚生年金保険に加入していた。
かように認めることができ、右認定をくつがえすに足りる証拠はさらにない。右認定事実によれば、原告らはいずれも前記工事人夫に採用されたことにより任期を一日と定められて日日雇い入れられる非常勤職員に任用されたものであり、昭和四四年二月二四日に本件任用更新拒絶通知があるまでは、従前の任用が同一の条件をもつて更新されてきたといわなければならない。
三 原告らは、一般職に属する職員を任期を一日と定めて日日雇い入れることは国家公務員法上許されないと主張する。しかしながら、すでにみたとおり、原告らの本件工事人夫は、同法上一般職に属する職員ではあるが、その職務と責任の特殊性にもとづいて常時勤務に服することを要しない職員とするものであり、その勤務形態にてらして日日雇い入れられる者が占めるべき職とするものであつて、雇用制度上合理的な理由のあることが明らかである。そして、日日雇用の非常勤職員の任用は、同法六〇条の臨時的職員の任用とともに、国家公務員の身分保障に関する同法七五条、七八条、七九条、八九条等の適用以前の問題であるから(八一条参照)、原告らを日日雇用の非常勤職員に任用することが同法の定める身分保障の趣旨を没却することになるというのは(原告らの主張)当らない。また、任命権者は、臨時的任用および併任の場合を除き、恒常的に置く必要がある官職に充てるべき常勤の職員を任期を定めて任用してはならないものとするが(人事院規則八-一二第一五条の二〕、これは右のような常勤職員の任用に関する制限規定であるにとどまり、ほかに特別の定めがないのであるから、非常勤職員を任期を定めて任用する(日日雇用を含む。)ことは毫も妨げられないと解すべきである。なお、入事院規則一五-四(非常勤職員の勤務時間および休暇)ならびに八-一二(職員の任免)七四条二項は、いずれも日日雇用の非常勤職員の任用を適法としたうえでの規定であることはいうまでもない。原告らの右主張は理由がない。
四 宇都宮国道工事事務所長が昭和四四年二月二四日に原告らに対し文書をもつて原告らの任用を同年三月二九日限り更新しない旨の通知をしたことは当事者間に争いがない。
右通知について、原告らはその効力を争うので、以下考察する。
1 原告らは、その任用が任期の定めのない任用に転化したのであるから、日日雇用を前提とする本件任用更新拒絶は無効である旨主張し、その趣旨は、要するに期限付任用が長期間更新して継続されるとその任用は当然に任期の定めのないものにたるというもののようであるが、期限付任用はいかに長期間更新して継続されても、期限付任用としての性質を変ずるものではない。期限付任用と任期の定めのない任用とは性質を異にする別個の任用行為であるから任命権者による任期の定めのない職員への任命行為がない以上、任期の定めのない職員への任命が有効に成立し得る余地はないのである。原告らの右主張は理由がない。
2 原告らは、その任期を一日と定められて日日雇い入れられる非常勤職員であるから、当日の任期が満了した場合において、その任用が更新されないときは、当然退職するにいたる。このことは人事院規則八-一二(職員の任免)七四条一項三号の規定上明らかである。したがつて、本件任用更新拒絶通知は、原告らの日日雇用の任用について、昭和四四年三月三〇日以降の新たな任用を拒絶する意思通知であるにとどまり、同年三月二九日の任用を終了させる効果をもたらすわけではない(従前の任用は同日の任期満了により当然に終了するから)。右のように任期が満了して当然退職するのであるから、本件任用更新拒絶は、解雇に当らないのはもとより、国家公務員法八九条一項、人事院規則八-一二(職員の任免)七一条六号にいう免職または同法八九条一項、二項にいう著しく不利益な処分のいずれにも当らないと解すべきである。もつとも、同法第一次改正法律付則三条により労働基準法二一条但書、一号、二〇条一項本文の規定を準用して、本件任用更新拒絶が通知されたことがうかがわれるが、しかし、右準用法条の故をもつて原告らの任期満了による当然退職がその法律的性質を替えて解雇に転ずるものではありえない。
本件任用更新拒絶が解雇、免職、その他著しく不利益な処分であることを前提とする原告らの主張はいずれも理由がなく、採用のかぎりでない。
3 原告坪山、小滝、川畑、田崎、柿沼および簗瀬が昭和三八年頃矢板建設省労務者組合を結成して昭和四四年二月二五日付で国家公務員法上の職員団体の登録を経由したことは当時者間に争いのないところであるが、宇都宮国道工事事務所長が組合ないし組合員である右原告らを組合活動のゆえに敵視し、本件任用更新拒絶におよんだことを認めるに足りる証拠はない。かえつて、<証拠省略>に弁論の全趣旨をあわせると、建設省は、行政経済の観点と民間土木業者の工事施工能力の整備状況から業務遂行の合理化をはかるため、昭和三〇年ころからそれまで直営工事として行なわれてきた業務を漸次請負方式で施工するようになつたし、また宇都宮国道工事事務所においても、その所管業務が増大
し、交通量の激増に伴う道路上での公務災害も増加しつつあつたことから業務の能率的遂行と職員の合理的配置をはかる必要があつたので、建設省の右方針に従つて工事施工方式を請負方式に転換することにして、それまで原告ら本件工事人夫が従事していた直営工事を廃するに伴い原告らの任用を昭和四四年三月二九日限り更新しない旨決定したことが認められる。したがつて、原告らの右主張も採用できない。
そうすると、原告らは、その日日雇用の任用につき昭和四四年三月二九日をもつて任期満了により当然退職して国家公務員法上一般職に属する職員たる地位を喪失したといわなければならない。
よつて、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから、これを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 中川幹郎 仙田富士夫 本田恭一)